弊社への相談の中で近年増えてきているものの1つに「不当解雇やハラスメントなどの雇用トラブル・労働審判」があります。
本日は法人経営についてまわる労働審判の事例についてお話させて頂きます。
★労働審判とは??
労働審判とは労働者と事業主との間に起こっている紛争(労使紛争)のことをさします。
不当解雇やハラスメント、残業代や賞与など各種賃金などの未払いなどによる紛争が対象となります。
通常の裁判と大きく違う点は解決スピードと非公開であることです。
■スピード
労働審判は原則3回で審理が終結します。
かつ1回目の審判は労働者が裁判所に申立書を提出してから1カ月以内に行われます。法人の立場から言い換えると、企業は申立書が届いてから3週間程度で回答や証拠を用意する必要があるということです。
3回の審理で紛争が終わらない場合は、最終的に訴訟へと展開となります。
■非公開
通常の訴訟からの裁判であれば、内容は公になりますが、労働審判は非公開となります。
そのため(セクハラ・パワハラ)などプライバシーに配慮した方が良い内容の解決にも適しているといえます。
では具体的な事例をみてみましょう。
★事例
ビルメンテナンス会社Aは不動産管理組合Bより新規受注案件として建物Cの日常清掃・特別清掃を請け負える約束を交わした。
実際の契約にあたっては確実に清掃スタッフが2名は必要なため、元々別会社で建物Cの日常清掃を行っていたDさんと、求人を出し新しくEさんを確保。
それぞれと面談ののち、賃金や労働時間といった具体的な採用条件が記載されている、雇用契約書を基に説明をする。
しかし、その後 管理組合Bより建物Cの清掃契約は別の会社にするとビルメンテナンス会社Aに連絡があったため、建物C近隣に他の清掃作業物件がないこと、DさんEさん共にPCなどの事務作業スキルがなく事務所作業には適さないこと、高齢のため他エリアの作業が難しいこと(両名とも当初採用条件の説明時から会社Aに何度も伝えていた)から採用を白紙にしたいと伝える。
後日、所属ユニオンを介して採用取り消し=解雇を撤回するよう交渉申し入れとなる。
★対応
・弊社提携弁護士をビルメンテナンス会社Aに紹介し、保険会社の損害サービスとも連携。
弁護士・損害サービスからD・Eさんへ連絡を取り、D・Eさんそれぞれ5か月分の賃金相当額・慰謝料として合計約230万円で示談。
ビルメンテナンス会社Aへ免責金額を差し引いた示談金を支払い、また弁護士への着手金・成功報酬60万円も保険金での支払いとなりました。
★今回のポイント
①会社Aの担当者は、採用条件を口頭で伝えるだけではなく、条件が記載されている雇用契約書を本人に見せていました。また、その書類を基に具体的な勤務開始希望日なども対面で伝えていました。
他にも「将来的にはこの現場での教育リーダーとしても活躍してほしいと思っている」といったように、将来のビジョンも伝えていたこともわかりました。
このような場合、まだ雇用契約書への署名・捺印がなくとも極めて採用・雇用に近い状況であった、雇用と同様の状況にあったと判断された例となります。
②会話の記録、メモなどが一切なかった。
今回は会社Aの担当者はD・Eさんにアプローチする段階、採用・雇用の条件などを話す段階、採用を白紙にしたいと伝えた段階、それぞれにおいて、雇用契約書以外はほぼ「相手に伝えた内容」「相手が話した内容」の記録やメモがなかった。もしくはメモはあったが破棄している状態でした。
一方、D・Eさんはそれぞれ事前に会話内容を記録、メモをとっており、それが申立書の相手方証拠として提出されました。
結果的に、D・Eさんの主張に信ぴょう性があると判断されたと考えられます。
★最後に
上記①②については弊社でもよくお伺いするケースです。
企業として、案件の受注のために急ぎで人手を確保しなければいけないケースは多々ありますが、そのような場合も必ず「会話内容の記録・メモ」を担当者に必ず取らせておくこと、またそれが上司に共有される仕組み作りが欠かせません。
別の企業は、そのような記録や報告による共有を「評価制度」に取り入れているケースもあります。
また、このような雇用トラブルについて相談できる窓口(保険代理店や弁護士など)を抱えておくことも不測の事態への備えとして必要であると考えます。
なお、雇用後にも雇用契約書、特に有期契約の場合などについて
・全スタッフ分が揃っているか(※長年働いてくれているスタッフについては雇用契約書ない、または交わしていなかったといったケースも散見されます)
・有期・契約社員に関しては更新手続きをしっかりと行っているか(最初の契約書以後ほったらかしといったケースも。。)
といった点もしっかり確認をしておくことをおすすめします。
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